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民話9 キツネに化かされた話

キツネに化かされた話(邑南町井原)
 収録・再話 酒井 董美(口承文芸研究者)

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 昔から井出が迫にはキツネがたくさんおって、人をよく化かすのでみんな気をつけていたけれど、またしても化かされてしまう。
 ある人が隣村に使いに行って帰りがけに日が暮れてしまった。
こりゃあ、化かされにゃええがーと思い思い行っていると、向こうから若い人がやってきた。
「あんたどこへ行きなさったか、早う帰りなさいよ。このへんにゃキツネがおるけえ」
「ええ、ええ、早う帰りましょう」。
 その人がどんどんどんどん行きましたが、いくら行ってもなかなか帰りつきません。
 おかしいなあ、うちにはとっくに帰っとらにゃあならんはずだが、どうしてかいなあーと思っていたら、さっきの人がまた現れて、
「あんた、まんだこんなところにおりなはったか。こりゃわしが連れて行ってあげましょう。まあ、うちへ寄りなさい」
 それから家へ連れて行ってお茶を出してくれたり、饅頭を出してくれたりして、すっかり呼ばれてしまった。
「ついでに風呂にも入って帰りなさい」
「はあ、すみませんなあ」。案内を受けたその人は腹もふくれたしするので、急いで帰ることもないと思い、せっかくだからと風呂に入ってべしゃべしゃやっていたところ、気がついてみれば、野原の中の便壷へ入れられているではないか。そして前の皿に出してくれた饅頭はと見れば、これはまた馬の糞だった。
 その人はやっと自分がキツネにばかされたことと気づいたそうな。ぽっちり。


解説
 昭和59年8月にうかがった。この類の世間話の分布は広い。野壷を風呂と思って入ったり、馬の糞を饅頭と信じて食べたりした話は、自分の地方の話として、だれでも一度は聞いた経験があることだろう。


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