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民話10 山猫に化かされた話

山猫に化かされた話(隠岐の島町苗代田)
 収録・再話 酒井 董美(口承文芸研究者)

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 ある人が久見の奥山で仕事しているうちに、日暮れになってしまった。そこで山田の方へ帰ろうと、いくら歩いてもそこへは出ないで、どうも同じところばかりをぐるぐる回っているようだ。
-こら、きっと山猫がだましているのに違いない-
 こう思ったその人は、
-それならここらで火でも焚いて、それに当たってゆっくり休んで帰ろう-
と決心して火を焚き始めた。
 やがてそこへ妙な男が近づいて来て、顔をそむけるようにして、自分も座っている。
-山猫の化けに違いない-
その人はこう思っていると、男は、
「相撲取らぁ、相撲取らぁ」と言うではないか。
「よし、やっか」というわけで、男に飛びついてみるが、じきに身体をかわされてしまい、捕まえることにはならん。何回やってもだめだ。
-よしよし、今度こそ捕まえてやる-と考えたその人は、前に見えている男には見向きもせず、「やっ」とばかりに、手を広げて後ろに向かって飛びついた。そうしたら、みごとに山猫を捕まえることができた。
-こりゃ、しめた-というので、それを岩に向かってたたきつけたら、
「ギャ-ッ」と悲鳴をあげて、その山猫は逃げてしまった。それで、その人は無事に家へ帰ったのだった。
 このように昔は夜になると、山猫が人間をだますというような話がよくあった。


解説
 昭和54年(1979)8月にうかがっている。隠岐島では島前、島後を問わず、世間話としての妖怪譚に猫が出てくる場合が多い。他の地方ではキツネが登場するところが、どういうわけか隠岐では猫なのである。


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