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民話11 炭焼き小次郎

炭焼き小次郎(仁多郡奥出雲町大呂)

        収録・再話 酒井 董美(口承文芸研究者)
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 とんと昔があったげな。
 大阪にコウノイケ(鴻池)という長者さんがあったそうな。
 そこのお嬢さんがいくら年を取っても良い縁がないので、ある日八卦見(占い師)に見てもらわれたそうな。
 八卦見は、
「いや、縁がないこたぁない。ちゃんと決まって婿さんがああだども(あるけれど)、佐渡の国の炭焼き小次郎いいもんが連れあい(夫)になぁもんだけん、そこへ訪ねて行かっしゃい」と言ったそうな。
 それから、家の人たちはそれならば行かさなければならん、ということになって支度をさせ、お嬢さん一人を佐渡の国へ行かせたそうです。
 お嬢さんは炭焼き小次郎のとこへ着いて、小次郎にその事情を話したら、
「まあ、よう来てごさっしゃった」というようなことだったそうな。
 そして、
「ほんなら、夫婦杯(みょうとさかずき)をせないけんけん、まあ、多少なと御馳走(ごっつぉう)せにゃぁいけんじゃないか」と言って、二人で相談したそうな。
 そうして、肴(さかな)もなかったりで、連れだって歩いていたら、大きな堤(つつみ)があったそうで、そこにカモが泳いでいたので、
「こんなカモを捕って肴にしようじゃないか」と言って、それから、お嬢さんが持ってきた財布をカモめがけてポ-ンと投げたそうな。
 そうしたら、カモは発って逃げてしまうし、財布は堤の中に沈んでしまうし、何も買えなくなってしまったそうな。お嬢さんが、
「まあ、惜しいことをしたわ、ほんに」と言ったら、小次郎は、
「いんやぁ、そげに惜しいことはないわな。おらの家の後ろを掘ぉと、なんぼぉでもお金が出ぇけん、行って掘ってみようやぁ」と言ったそうな。
 それから、二人で帰って、また背戸(せど)の山を掘ったらゾロゾロゾロゾロといくらでも白金が出たそうなので、お嬢さんは、
「まあぁ、こりゃぁ結構なとこへ来たわぁ」と言って、また大阪のコウノイケへ手紙を出して喜んでもらったそうな。
 こっぽり。

語り手 女性・明治27年(1894)生

解説
昭和45年(1970)7月15日に聞かせていただいた。稲田浩二『日本昔話通観』では、「むかし語り」の「誕生」の下位分類「運命的誕生」の中で「炭焼き長者」として登録されているが、さらにこれには「初婚型」と「再婚型」に分けられている。本話は、この中の前者にあたる。四国や九州では男の名前を小次郎とすることが多い。他に藤太、吉次、喜藤次、藤次郎、長次郎などの名もあり、また住友家の始祖伝説とすることも多い。


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