HOME > 民話12 エンコウ婿

民話12 エンコウ婿

エンコウ婿(鹿足郡津和野町木部)   (※エンコウ…河童)
            収録・再話 酒井 董美(口承文芸研究者)

→音声を聞く


昔々、あるお父さんが田の水を入れに行きました。ところが田は日焼けて水はありません。ちょうどそこにエンコウが出てきました。
「エンコウやエンコウや、わたしの田が干(ひ)たから水を当ててくれないか」
「それは当ててあげるけど、あなたの娘を嫁にくださいね」
「それはおやすいことじゃ。三人おるから、どれかやりましょう」
「それなら水は当ててあげましょう」。
 お父さんは家へ帰って、
「おまえら、だれか一人、エンコウの嫁に行ってくれのう」と言いました。
 するとまず姉は、
「わたしは行かんよ」。その妹にも言ったところが、
「わたしも行かんよ」と言いました。一番末の娘は、こう言いました。
「それならわたしが行ってあげましょう。その代わりに瓢箪(ひょうたん)を千個ほど買ってください」
 お父さんはすぐに瓢箪を千、買ってきました。
 エンコウは、ある夜、お迎えに来ました。妹は瓢箪をみなエンコウの背に担がせました。そしてエンコウと連れだって、道をどんどん行きましたが、そのうち川に入りました。
 ところが、千の瓢箪が押し込めばポンポンと上に浮かびますので、エンコウはまったく沈むことができません。そこでエンコウは困ってしまい、
「こんな嫁なら、もういらない」と断わりました。それで妹は喜んで帰ってしまいました。
 もう滑ったり釜の蓋。

語り手 女性・昭和37年(1962)当時68歳

解説
 昭和37年(1962)8月23日にうかがった話である。
 エンコウというのは河童の地方名で、中国地方各地でみられるが、出雲地方や隠岐地方ではよく川子(カワコ)と呼ばれている。そして他の地方ではエンコウに代わって猿とか蛇が、婿の役割を果たしている場合が普通である。


ページトップ