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民謡3 高砂の爺さん婆さん

高砂の爺さん婆さん(高砂・隠岐の島町中村)
歌い手 女性・明治35年(1902)生、男性・昭和6年(1931)生

収録・再話   口承文芸研究者  酒井董美

→音声を聞く その1 その2 その3 その4

高砂の爺さんと婆さんと
小松の木陰で 掃除すること 始めるそうな(以上・一人でうたう)
ア オチャヤレ オチャヤレ(他の人々で囃す・以下同)

千両箱 やっこやさと
抱えて行かねばなるまい
よういよういにそこらが大事
ア オチャヤレ オチャヤレ

正月や 爺さんと婆さんがコタツで酒酌む
裏のお蔵には 俵の山だよ
ア オチャヤレ オチャヤレ

東雲(しののめ)のつぼめ 常磐の松の木小枝に
雀百まで踊られしゃんしゃん
ア オチャヤレ オチャヤレ

解説
 昭和60年(1985)8月にうかがった。
 これは婚礼のときに座敷でうたわれる祝い歌である。結婚式といえば、このごろでは結婚式場でするのが普通であるが、以前は、個人の家で婚礼がとりおこなわれていた。
 この歌は、そのようなおり、盃も終わり、宴席になったころあいを見計らって行われる一種の余興で出されるのである。
 座敷の上座に花婿と花嫁が座っているところへ、嫁の両親が人形を抱いて踊りながら出てきて、それを花嫁に渡す。すると今度は花嫁がそれを花婿に渡す。そのようにすると次には花嫁側の分家の夫婦が、踊りながら、その人形を連れに行き、それを受け取った後、踊りながら自分の席に帰るのである。
 これは一種の予祝で、子供が授かるようにと願う気持ちが、自然とこのような余興を生んだと思われる。
 ところで、鳥取県東部地区の八頭郡用瀬町別府では、「おちゃれ」と称する座敷歌があり、詞章から見ると同類と思われる。これは鳥取県民謡調査報告書『鳥取県の民謡』(1988年・鳥取県教育委員会発行)に出ているものである。

おちゃやれ おちゃやれ おちゃやれ 
おちゃやのおでんさんが お茶を出すとてへそ出したそうな

高砂のじいさんとばあさんが 小松の小陰で ええことよいこと なされましたそうな

別に婚礼でうたうなどの注釈はないが、確かに同じ仲間である。離れたところに存在する類歌を見ると、ついつい伝承の不思議さを考えさせられるのである。

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