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民謡4 鴨が来た来た

鴨が来た来た(大漁歌・松江市島根町)
収録・再話 酒井 董美(口承文芸研究者)
   歌い手 男性・大正4年(1915)生まれ

→音声を聞く

鴨が来た来た 三津島の灘へ
鴨がイワシを 連れてきた オモシロヤ


解説
昭和38年(1963)8月にうかがった。
 これは大漁歌といっているが、「あたごまい」とも呼ばれている。漢字を当てれば「愛宕舞」とでも書くのであろうか。それならば愛宕さんは、海の神で大漁を恵んでくださる信仰につながる神のはずである。けれども、火を防ぐ神で知られているものの、漁とはどうも関係がないようだ。しかし、なぜかこう称している。案外、愛宕信仰には漁に関連する神という意味が隠されているのかも知れない。
 さて、この歌はこれまで松江市島根町・美保関町・米子市あたりで収録した。今のところ、他の地方では、残念ながらまだ収録を果たしていない。この歌は主に海の男たちが大漁を祝って酒宴の席でうたわれている。
 詞章であるが、「鴨がイワシを連れてきた」とある。つまり、鴨という鳥が、豊漁を運んできたわけであるが、これは神の使いでもある鳥が、人々に幸をもたらすという信仰が底に流れていると考えられるであろう。三津島というのは、島根町多古の沖にある島の名前であるが、同類ではそれぞれの地区の名前を詠み込んで作られている。例えば野波地区では「鴨が来た来た野波の灘へ…」といった具合にである。そして「オモシロヤ」は囃子言葉である。なお、同類の詞章に次のものがある(囃子言葉は省略)。

イワシ捕れ捕れ 天気もよかれ
灘で商い値もよかれ

大漁して また幟を立てて
明神様へと参詣(さんき)する

届け届けは末まで届け
末は鶴亀五葉の松

返せ返せも幟を立てて
明神様へと参詣する

ここに引用した二番目の歌の詞章「明神様」は、近くの美保関町にある美保神社の祭神、事代主神(ことしろにしのかみ)のことであり、別名、エビス神ともされているが、この神は漁を司っているのである。
また三番目の歌である最初の「届け届けは末まで届け」は、一般的には「めでためでたが三つ重なりて」の詞章で知られている歌の変化したものであろう。更に次の歌の「返せ返せも幟を立てて」であるが、これは一種の「返し」のテクニックであり、ある歌のくり返しをこううたったものであろう。もちろん元歌は、「大漁してまた幟を立てて、明神様へと参詣する」であり、その前半部分「大漁して」のところを、「返せ返せも」と代用しているのである。

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