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民謡6 臼が嫌さに 素麺屋を出たら(臼挽き歌)

臼が嫌さに 素麺屋を出たら(臼挽き歌・浜田市三隅町吉浦)
歌い手 女性・昭和35年当時73歳

収録・再話   口承文芸研究者  酒井董美

→音声を聞く その1 その2 その3 


臼が嫌さに 素麺屋を出たら
生まれはいかの 饅頭屋に

饅頭屋にこそ よい嫁娘
どれが嫁やら娘やら

嫁と娘は 一目見りゃ知れる
娘ゃ白歯で 髪ぁ島田


解説
 同じ臼挽き歌ではあるが、それぞれ単独でうたうのではなく、三つを続けることによって雰囲気が出るようになっている。つまり、この歌の内容は連続することで、ちょっとした物語になっているのである。
 そして物語の主人公は、若い男性であろう。初め奉公に素麺屋に住み込んだものの、夜なべ作業に臼挽きをさせられるが、その辛さに耐えきれず、そこを辞めて饅頭屋に勤めることにした。
 ところで、今度は仕事の中身については全く触れられず、そこにいる美しい二人の女性のことに話題が転換している。
 いたって女性に目のない男性の性(さが)とでもいえばよいのであろうか。そして今度はその女性であるが、昔は歯を染めるか否か、髪かたちで、未婚者と既婚者では違っていたから、三番ではその違いの説明になっている。
 まず、「娘白歯で」の詞章である。未婚の女性の歯は、そのままであったので「白歯」と述べているが、既婚者は鉄漿(おはぐろ)と称して、歯を黒く染めていた。したがってそのような女性は、既婚者であることを示している。歌では「鉄漿」の語句はないが、「娘白歯で」の後、本来ならば「嫁は鉄漿をつけている」を意味する語句があるべきである。それを省略した形を取り、次いで「髪ぁ島田」と娘の髪型に移っている。「島田」が「島田髷(まげ)」の略したことばであり、「文金高島田」とか「高島田」というのも島田髷のレパートリーのひとつである。
 一方、嫁の方は「丸髷」という髪の形に結っていた。したがって、歌では「髪ぁ島田」の後に「嫁は丸髷である」という語句が省略されている。
 この歌は、若い男性の目を通して、昔の女性の既婚者と未婚者の習俗の違いをそれとなく説明している。
 何気ない作業歌ではあるが、その背後に隠された時代を読み取ることによって、わたしたちは昔の習俗を理解することができるのである。
 そうして考えれば、考古学的な遺跡と同様、現在は廃れてしまったものの、以前の作業歌やわらべ歌の詞章の中には、かつての習俗がびっしり閉じ込められており、これらの無形(民俗)文化財である民謡もまた、考古学の遺跡同様大切にしなければならないのである。


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