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民謡7 ごさるたんびに牡丹餅ゃ向かぬ(臼挽き歌)

ござるたんびに牡丹餅ゃ向かぬ(臼挽き歌・吉賀町柿木村)
歌い手 男性・明治43年(1910)生

収録・再話   口承文芸研究者  酒井董美

音声を聞く 

ござるたんびに牡丹餅ゃ向かぬ ナスビ漬食うてお茶まいれ


解説
 鹿足郡吉賀町柿木村で見つけた臼挽き歌である。
 歌の詞章であるが、これは親しい間柄で、何の気だてもなく交わされる会話そのままである。伝承者は、下須地区にお住まいだった。ところが、わたしは同村の椛谷地区で、同じ仲間に属する次の歌を聞いている。

 ござるたんびに牡丹餅ゃならぬ 瓜の奈良漬お茶あがれ
  -女性・明治30年(1897)生-

 この女性とは、とても親しかった。当時、柿木中学校に勤めていたわたしだったが、毎週のように大田さんのお宅を訪問し、村の民俗について教えてもらっていた。
 この歌は昭和38年(1963)9月28日にうかがったが、これには忘れられない思い出がある。歌が終わって出されたお茶に添えてお茶口があったが、なぜかそれに白布がかけてある。取りのけてみれば、歌の詞章のように瓜の奈良漬が載せられているではないか。つまり彼女は、歌とお茶口を掛けてうたわれたのであった。一本取られたわたしは、茶目っ気で次の即興歌を作ってうたった。

 訪ね来るたび菓子出されては やはり気兼ねで食べにくい。

 すると彼女も笑いながら、即興歌を返された。

 遠慮なさればわたしも遠慮 ざっくばらんに食べしゃんせ

 このことが機縁になって彼女とわたしの間には、歌問答がこれから延々と続いた。例えば、あるとき生徒が職員室へ「大田さんからです」と紙切れを届けてくれ、開いてみると、次の歌が書かれていた。

 暇がなければござりはせぬと 承知しながら待つ長さ

わたしは「これを渡して」と、すぐに次のものを書いて、生徒に渡した。

 行こと思えど仕事はせわし 心そちらに身はこちに

 それはわたしが転勤で現地を離れても、ずっと続いたのである。



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