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民謡9 世の中にめでたいものは(松坂)

世の中にめでたいものは(松坂・松江市美保関町)
           収録・再話 酒井 董美(口承文芸研究者)

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世の中に めでたいものは芋の種 葉には金銀黄金の露を受け
根には十二の子を栄え 孫子栄えて末繁盛

歌い手 男性・昭和8年(1933)生

解説
 この歌は婚礼後の祝宴とか、めでたい席でうたわれるもので一種の余興歌である。
祝いの席の歌であるので、そこでうたわれる歌の詞章も、縁起を担いでめでたい内容になっている。芋といえば、根元に多くの実をつけているところから、子孫繁栄を示し、葉に溜まる露も、光線のあたり具合によって、金銀黄金のように輝くことがあり、それを財宝になぞらえて、豊かになるよう願う気持ちを、そのようにうたい込んでいるのであろう。また「十二」の数字は、一年が十二ヶ月からなっていることを象徴しており、そこから一年中常にとの意味を象徴していると考えられる。
 ところで、この歌は県内一円で聞くことができるようである。そして似たようにしてうたわれているやはり「松坂」といわれる歌を、同じ美保関町の歌で紹介しておこう。
 まず次の歌は「高砂」の後に出すものとされている。

うれしめでたぇー この盃は 鶴と亀との盃で
鶴は千年生きるもの 亀は万年生きるもの
この酒いただくおん方は 寿命長かれ末繁盛(同じ歌い手)

 鶴とか亀は、もともと長寿であり、それだけに縁起の良い動物と見なされていることは、説明するまでもあるまい。同じような詞章ではあるものの、もう少し長い歌も次のように残されている。

盃の台の回りに松植えて 上から鶴が舞い下がり 下からは亀がはい上がり
鶴は千年生きるもの 亀は万年生きるもの 鶴と亀とのおん盃で
このご酒あがるおん方は 寿命長かれ末繁盛(同じ歌い手)

次には婚礼の謡の後、お開きの盃のおりにうたわれるものである。

祝言の床前見れば 婿さんは待つ(松)ばかり 嫁御は紅梅、梅の花
二親さんは高砂で 謡の文句は四海浪(しかいなみ) 静かに納まる床の間へ(同じ歌い手)

 まさに宴会の収めにふさわしい歌である。以前、婚礼もめいめいの家で行われたから、これらの歌はまさにその家の繁栄を祝福していたのである。

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