民話3 度胸のよい婿捜し
度胸のよい婿捜し(浜田市三隅町東平原)
収録・再話 酒井 董美(ただよし)(山陰民俗学会会長)
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昔、あるところに有名な菓子屋がありましたげな。
その菓子屋にたった一人、娘がおり、それがまたとても美しい人だったそうです。
そして婿さんをもらわなければというので、いろいろ捜しましたが、なかなか気に入った婿さんが見つかりません。
しかし、やっと見つけて婿さんをもらったそうです。
この婿さんというのは、また、菓子をこしらえることがとても上手で、その菓子屋はますます繁盛したそうです。
ところが、よいことばかりは続かないもので、その婿さんが死にましたそうな。
「惜しい婿さんが死んだ。」
「本当に残念でしょうがない。」
娘さんも本当に狂わんばかりに悲しみなさるし、両親も心配されたそうです。
けれども、死んだものはしかたがないので、代わりの婿さんをもらわなければ、ということになりました。
「とてもああいう婿さんをもらうことはできん。しかし、人間ちゅうもんは何か一つ芸がなければおもしろうなぁが、いよいよ他におらんちゅうことになりゃあ、度胸のええ、寂しさぁせん婿さんを捜そう」ということになりましたげな。
それから婿さんを一人もらいましたげな。
ところが、夜、婿さんと娘さんと連れて寝ていて、
「まあ、ちょっこり起きい」と娘さんが婿さんに言う。
見ると、前の婿さんを棺桶に入れて、埋めずに床の間に据えてあるんだげな。そして棺桶の蓋を取って、
「こりゃぁ、はじめ死んだ婿さんで、惜しゅうてならんけえ、埋(い)けんこうにここにあるが、この肉をなあ、切って食べつりゃあ、わしの婿にしてやろう」と娘さんが言いましたげな。
新しい婿さんは、たまげてしまって、とてもそれを食べる気になれないので、とんで帰ってしまったげな。
また、婿さんをもらったげな。次の婿さんにもそのようにしますと、これもたまげて帰ってしまったげな。
それで、三人目の婿さんにも、そのようにしましたげな。
しかし、その男は度胸がよいのだそうです。
「これを食うたところで、毒で死にゃあせんけえ、どのくらい食やあええか。」
「いや、そりゃぁわずかでええ。好きなほど食やあ婿にしてやる。」
それを言うと婿さんは、
「よし食おう。包丁もって来い。」そう言って包丁を受け取ると、それを切って食べましたげな。
ところが、食べてみれば、それは菓子だったげな。
なんと言ってもそこは菓子屋なので、前の婿さんに似せて菓子でこしらえてありましたげな。
その男は、そのように度胸がよかったので、とうとうそこの婿さんになりましたげな。
解説
語ってくださったのは明治35年(1902)生まれの男性で、昭和35年(1960)3月13日にお宅へおじゃまして聞かせていただいた。
身の毛もよだつような恐ろしい話のような雰囲気で語られるが、最後にどんでん返しが準備されており、聞いてしまえば「なんだそういうことか」と笑って納得するのであるが、実際、松岡さんの語り方が見事なもので、聞き手は真に迫ってこわごわ話に引き込まれてゆく、といった案配だった。
関敬吾博士の分類では、「本格昔話」の中の「婚姻・難題聟」の中の「ぼっこ食い」として登録されている。各地に類話が認められるが、わたしとしてはまだ他では直接聞いたことのない話なのである。