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わらべ歌4 じいとばば 寝とれ

じいとばば 寝とれ(手遊びの歌・奥出雲町大呂)

収録・再話 酒井 董美(ただよし)(山陰民俗学会会長)

→音声を聞く

じいとばば えっと寝え
嫁は起きて 火ぃ焚け
婿は起きて カンナ行け


解説

歌い手は大正5 年(1916)生まれの男性である。昭和43年(1968)5月18日にうかがった。
 これはアケビの花粉で遊ぶ歌である。アケビは五月上旬から中旬にかれんな花をつけるが、色は赤、白、紫色などさまざまである。それを見つけた子供たちは、花から五つか六つの雌しべを手のひらに載せ、この歌をうたいながら、一方の手で手首のへんをとんとんとたたく。すると手のひらの雌しべは、ひょっこり起きあがってくるものが出る。「二つ起きたぞ」、「おらは三つ」、「みんな寝たままだ」。子供たちはこのようにして楽しんでいた。
 以前の子供たちの世界では、自然の中にいろいろな遊びを見つけ、こうして愉快に遊んでいた。花粉を遊び道具として、楽しく遊ぶとは、何とすばらしいことか。
 同じ種類の歌は昭和63年にも、雲南市頓原町志津見の女性(大正5年生)から、次のように聞いている。

じいとばあは 寝とれ
嫁は起きて 火を焚け
婿は起きて 里へ行け

 ところで、この奥出雲町の歌では、なぜか最後がまったく違っていた。「婿は起きて カンナ行け」なのである。
たたら製鉄のとても盛だった奥出雲地方では、以前はカンナ流しが盛んに行われていた。これは山肌に強く水を吹きかけて土砂を流し、砂鉄を採るのであるが、子どもたちはちゃんとそれを眺めて知っていた。それであるので同じような子どもの遊び歌にもそのような労働の存在が投影されたのであろう。ここでもその地域の特色が出ているのである。そしてどうやらこの種類の歌は、まだ鳥取県では見つかっておらず、島根県下でも出雲地方の山間部に限って伝承されているようだ。けれども驚いたことには、はるか離れた九州に仲間が存在していた。長崎県南高来郡口之津町の次の歌である。

じいとばあは寝とれ
嫁ごは起きて
茶わかせ

 これは柳原書店発行の福岡博・黒島宏泰著『佐賀長崎のわらべ歌』(日本わらべ歌全集・第24巻)に出ており、以下の説明が添っていた。「にしきぎ科の常緑灌木、柾(まさき)(じとばの木)の赤い実を三つとって、手の中で振る時にうたう。二個が一緒になり、一個が別になった時、二個が爺と婆で一個が嫁で、早く起きてお茶をわかしているという。三個一緒の場合は、まだ寝てるとして、もう一度うたう。」はるか離れた意外なところではあるが、こうして親族関係の歌は伝えられているのであった。
 
 ところで、いずれの歌も、老人や女性を蔑視する風土が表れている。今日の人権意識から見れば不適切と思われる表現だが、伝承された内容を正確に後世に伝えていくことが学術的に大切であること、伝承された内容を歴史的事実として真剣に直視することこそ差別問題等の本質的な解決にとって必要であることから、あえて内容は変えずにそのまま掲載している。

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