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民話7 桃太郎

桃太郎(松江市八束町)
 収録・再話 酒井 董美(口承文芸研究者)

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 とんとん昔があったげな。
 昔、おじいさんとおばあさんがおったげな。
 ある日、おじいさんは山へ柴刈りに行ったげな。そしておばあさんの方は川へ洗濯に行っておったところ、川上から大きな桃がドンブラコドンブラコと流れてきたので、おばあさんはそれを拾い上げて噛んだら、とてもおいしかったげな。
それで、もう一つ流れてきたら、おじいさんに持っていんでやぁにー
と思っておったら、またもう一つ流れてきたので、その桃を拾ってエッサコラエッサコラ持って帰ったげな。そうしてーいま、おじいさんは留守だけん戸棚へ入れちょかかいーと桃を戸棚へ入れておいたら、やがておじいさんも帰ってきたげな。
「何ぞ、ええものはねか」
「ええものがああよ。川で桃拾って噛んだらおいしかったけん、おじいさんのも戸棚にしまってああが」
 そうして、戸棚から桃を出して割ろうとしたら、包丁でも割れにくかったげな。そのため、エエコラエエコラとやっと割ったところが、「オギャ−、オギャ−」と、中から赤ちゃんが出たきたげな。
 二人は本当にびっくりぎょうてんしてしまったげなが、
「まあ、こりゃあ男の子だわ」というようなことで、おじいさんとおばあさんがだいじに育てたげな。
 友だちはせっせと松葉の山に柴刈りに行くげなが、桃太郎は毎日遊んでばかりいたげな。そのうち、ある日のこと。隣の子どもが来たげな。
「桃太郎、桃太郎、山へ行かだねか」
「さあ、行きてもいいが、何しに行くだ」
「松葉かきに行かや」
「まあ、待ってごせ。今日はオイコ(背負い具)作らにゃならん」。
 それからまた明くる日。
「山へ行かや、桃太郎」
「今日はニカワ(背負い縄)作らんならん」
また明くる日誘いに行ったら、
「今日はワランジ(草鞋)作らんならん」
「三日もかかって待たせえか」
「そんなら今日は行かか」
 山へ行ったところが、友だちはどんどんどんどん落葉かきをするのだけれど、桃太郎さんは、つい日向ぼっこして、何もかき寄せようとはしないげな。
 そのうち友だちが、
「桃太郎。もういなや」
「何だい荷がなあて、いなれぬわ」
「ここに大きいホオタ(《松の》根っこ)がああが、これ負うていなか」というようなことになった。
 そこで友だちは松葉を持って帰るし、桃太郎はその松の根っこをエッコラエッコラ背負って帰ったのだそうな。
「おばあさん、薪取ってもどった」
「大きなもん取ってもどって、困ったなあ」
「どこへ下ろさか。ニワへ下ろさか」
「ニワがおげて(掘れて)しまあけん、ニワはいけん」
「門へ下ろさか」
「門もいけんわ。ポテンと下ろいたらように穴が開く」
「ああ、もはや荷を下ろさにゃ重たていけんけん」。
 桃太郎はそう言って、便所の前へポテ−ンと下ろしてしまったげな。
 夜になって、おばあさんが便所に行くといって出たところ、桃太郎の下ろした松の根っこに引っかかって転んでしまったげな。そして揉んでもさすっても治らんことになってしまったげな。
「こりゃまあ、寝て動かれぬことになってしまったわ。あげな大きな木取ってもどうけん、ま、困ったことしたわ」
 それから、この腰の痛いのを治すためには、鬼の生き肝を取ってもどらないといけない、ということになって、桃太郎も、
「どげなことしてでもおばあさんの腰は治さにゃいけん。おらはどうでも鬼退治に行く」と言ったので、おばあさんは桃太郎にキビ団子をこしらえてやったげな。
 桃太郎がキビ団子を袋に入れて、腰につけて行っていたら、向こうの方から犬が来たげな。
「桃太郎さん、桃太郎さん。どこ行くかぁ」
「いま、鬼が島へ鬼征伐に行き、鬼の生き肝を取ぉに行く」
「その腰のものは何だかい」
「日本一のキビ団子」
「そんなら一つちょうだい、食うてついて行く」
「そんなら一つやらか。ついて来い」。
 そうして歩いて行っていたら、キジ(雉)が来たげな。
「桃太郎さん、どこ行くかぁ」
「いま、鬼が島へ鬼征伐に行く」
「腰のものは何だかい」
「日本一のキビ団子」
「そんなら一つちょうだい、ついて行く」
 そうして、桃太郎はキジにもキビ団子を一つやって家来にしたげな。
そうしてどんどん歩いて行っていたら、今度はサル(猿)が出て来たげな。
「桃太郎さん、どこ行くかぁ」
「いま鬼が島へ鬼征伐に行く」
「腰の団子を一つくれたらお供をすうが」と言う。
 また一つやって家来にして、みんな連れで行って鬼退治をして、そうして鬼の生き肝を取ってもどって、おばあさんに食べさせて、腰の痛いのを治してあげたという話だ。
 それで、昔こっぽし。

解説
 語り手は二子地区にお住まいだった明治27年(1897)生の女性で、昭和44年(1969)7月にうかがった話である。八束町や美保関町で聞いた桃太郎は、ちょっとした怠け者である。そんなところが人間臭い。中国や四国にはこの同類の桃太郎の話が、ときどき伝承されているのである。


 
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